東京高等裁判所 平成12年(ネ)4280号 判決
主文
一 本件控訴をいずれも棄却する。
二 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第一控訴の趣旨
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人らは、控訴人らに対し、控訴人らを委任者名義とする別紙「テレビ電波障害対策の協定書委任状」(以下「本件委任状」という。)二通を返還せよ。
三 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
第二事案の概要
本件は、本件委任状を末広町町内会長である前田勝(以下「前田」という。)に交付した控訴人らが、被控訴人らは何の権限もなく本件委任状を占有していると主張し、民法六五一条により委任契約を解除したこと及び本件委任状を所有していることを理由に、被控訴人らに対し、本件委任状の返還を求めた事案である。
一 基礎となる事実
1 控訴人らは、平成一一年一〇月二七日以降、前田に対し、被控訴人らが新潟市竜が島一-四九二八-一二に建築予定の建物(新潟共同セメントサービスステーション)の建設によって生じるテレビ放送電波受信障害の改善に関する対策協定(以下「本件協定」という。)を締結することを委任し(以下「本件委任契約」という。)、前田に本件委任状を交付した(乙一ないし五、九、一〇、弁論の全趣旨)。
2 前田は、末広町町内会長の肩書で、平成一一年一一月一九日付けで、被控訴人らと本件協定を締結した(乙五)。
3 被控訴人電気化学工業株式会社は、本件委任状を占有している(争いがない)。
4 控訴人らが被控訴人らに対し、本件委任状の返還を求めるようになったのは、平成一一年一一月一九日以降である(弁論の全趣旨)。
二 争点に関する当事者の主張
本件の主要な争点は、本件委任契約の解除に基づき、あるいは、本件委任状の所有権に基づき、控訴人らが被控訴人らに本件委任状の返還を求めることができるか否かである。
1 契約解除
(一) 控訴人ら
(1) 控訴人らは、本件委任契約を解除したが、委任関係が終了して委任者が受任者に委任状の返還を求めた場合には、特段の事情のない限り、受任者は委任者に委任状を返還すべきであるし、本件においては、本件委任契約が終了した場合には本件委任状を返還する旨の約定があった。このことは、委任状が第三者の占有下にある場合でも同様に考えるべきであり、第三者が委任状を保留する特別な利益がある場合に限り、返還義務は免除されると解すべきであるところ、被控訴人らは、本件委任状を保留する特別な利益につき、何ら主張立証をしていない。なお、本件委任状のように、宛名と交付先が被控訴人らということで当初から予定されている場合には、たとえ第三者であっても、被控訴人らを受任者の立場に準じて考えるべきである。
(2) 本件委任状の内容は、被控訴人らがテレビ放送電波受信障害を除去するに必要な措置を講ずることについての控訴人らの承諾と、控訴人らの被控訴人らに対するテレビ放送電波受信障害対策工事の申込みにほかならない。控訴人らが、このような承諾と申込みを内容とする意思表示ないし観念の通知を解除(撤回)し本件委任状の返還を求めている以上、相手方である被控訴人らがこれを拒否する具体的な根拠や利益は存しない。
(二) 被控訴人ら
本件委任契約の受任者は、前田であって被控訴人らではなく、控訴人らは、前田に対し、その受任権限証明のため本件委任状を交付したものである。したがって、控訴人らは、前田との委任関係を終了させたとしても、前田に対し本件委任状の返還を請求し得るものではない。また、被控訴人らは、本件委任状に記載された委任行為として締結された本件協定を証する書類として、本件委任状を受任者の前田から受領したにすぎないから、控訴人らは、被控訴人らに対し、本件委任状の返還を求めることはできない。
2 本件委任状の所有権
(一) 控訴人ら
控訴人らは、自ら作成した自己名義の本件委任状の所有権を有している。
(二) 被控訴人ら
本件委任状の趣旨からすると、本件委任状の所有権は、所持者の変更に伴い移転されると解すべきであるから、控訴人らは、本件委任状の所有権を喪失している。
第三当裁判所の判断
当裁判所は、本件全資料を検討した結果、控訴人らは、被控訴人らに対し、本件委任状の返還を求めることはできないと判断する。その理由は、以下のとおりである。
一 本件委任契約の解除に基づく請求について
本件委任状(乙九、一〇)の記載によれば、控訴人らは、前田を代理人と定め、被控訴人らと本件協定を締結することに関する一切の権限を委任し、前田の代理権を証する書面として本件委任状を前田に交付したこと、被控訴人らは、本件委任状にテレビ放送電波受信障害対策工事の申込みの相手方として記載されているが、控訴人らと前田の本件委任契約との関係では第三者にすぎないことが認められる。そうすると、控訴人らと前田の間の本件委任契約が解除されたとしても、控訴人らは、そのことを理由として、第三者である被控訴人らに対し、本件委任状の返還を求めることはできない。
これに対し、控訴人らは、委任契約が解除された場合、委任状を保留する特別な利益がある場合でない限り、委任状を占有する第三者も委任者に対し委任状の返還義務を負うと解すべきであると主張し、また、本件委任状のように、宛名と交付先が被控訴人らということで当初から予定されている場合には、被控訴人らを受任者の立場に準じて考えるべきであると主張するが、いずれも独自の見解であり採用することはできない。また、控訴人らは、本件委任契約が終了した場合には本件委任状を返還する旨の約定があったと主張するが、そのような事実を認めるに足る証拠はない。さらに、控訴人らは、本件委任状は、被控訴人らがテレビ放送電波受信障害を除去するに必要な措置を講ずることに対する控訴人らの承諾と、控訴人らの被控訴人らに対するテレビ放送電波受信障害対策工事の申込みに当たると主張するが、本件委任状は、前田の代理権を証する書面にすぎないから、右の主張も採用することはできない。
二 本件委任状の所有権に基づく請求について
控訴人らが本件委任状を作成した時点において、本件委任状の所有権が控訴人らにあったことは明らかである。
しかし、本件委任状は、前田の代理権を証明する書面であるから、その性質上、代理人である前田と被控訴人らとの間で本件協定が締結された場合、本件協定の相手方である被控訴人らに交付され、被控訴人らにおいて前田の代理権を証明する書面として保管されるものであり、控訴人らも、そのことを知りながら本件委任状を前田に交付したと推認することができる。そうすると、控訴人らは、署名押印した本件委任状を前田に交付したことにより、前田に対し、本件協定を締結する一切の権限を委任し、かつ、本件協定が成立した場合には、本件委任状を被控訴人らに交付し、その所有権を移転することも委任したと解するのが相当である。したがって、本件委任状の所有権は、前田が控訴人らの代理人として被控訴人らと本件協定を締結し、被控訴人らが本件委任状の交付を受けたことにより、被控訴人らに移転したことになるから、遅くともその時点で、控訴人らは本件委任状の所有権を喪失したというべきである。
以上によれば、控訴人らは、被控訴人らに対し、所有権に基づき本件委任状の返還を求めることはできない。
第四結論
よって、控訴人らの本訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法六七条一項、六一条、六五条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 塩崎勤 裁判官 小林正 裁判官 萩原秀紀)